[楽しく生きるとは] あの日僕らは食い逃げをして、当たり前に打ち勝ったんだ

人生を変えたい

「ちょっと早川さ~ん!!今から戻って謝ってお金払って来ようよ~!!!」

「うっせーこれが正しいんだ!!あんなクソに払う金など無い!!!」




僕らは、新宿駅前にあるボッタクリ居酒屋という名の地獄への階段を脱出し、人ごみの喧騒のなか、新宿駅に向かってひた走っていた。

というより、僕は彼女の手を強引に引き、新宿駅という名の「地獄からの緊急避難所」へと彼女をいざなっていた。



世間的には確かに「食い逃げ」「無銭飲食」かもしれない。

でもだからどうしたというのだ。




入る前と入った後で言うことが違う。

一杯だけでいいと言っていたのに最低2杯、そして各自最低3品以上食い物をオーダーしろとのたまう地獄の門番。



そんなヤツの言うことなど、俺に聞く必要は無い。

そんなヤツの言うことなどに、俺が従う義務は無い。


だから走るんだ。

全速力で。

夜の新宿を。

優良企業に勤める善良な市民である僕の数少ない女友達の手を引いて。




栄光に向かって走る~!

あの列車に乗ってゆこう~!!

はだしのままで飛び出して~!!!

あの列車に乗ってゆこう~!!!!




一応クツははいた。

はだしだと走りづらいから。

がんばって買ったちょっとお値段の張るクツを取りに戻らないといけなくなるから。




地獄の門番はウソをつき、俺をダマす。

そしてダマされた俺にむかい、「決まりですから」ともっともらしい文句を並べ立て、俺の金を奪おうとする。




彼女は「常識的で当たり前」な判断をしようとした。

とりあえず頼んで払ってさっさと店を出ようと。

腹減ってないし2杯も飲めないけど、でも「決まり」には従おうと。




でもそんな常識的で当たり前な行動を取った結果、彼女は損をする。

彼女はまんまと騙される。




彼女は、新しいピアスを買えるだけの金額を、新しいピアスを買うのではなく「要らない酒と飯」を「頼め」と言われたからという理由だけでイヤイヤに支払う。




そんな馬鹿なことがあってはならない。

決まりだろうがなんだろうが、俺は知らん。

俺は払わん。

金なら、無い。





そういうとなんだかカッコイイけど、本当は別に彼女の財布はどうでもよく、僕自身が払いたくなかった。

そして僕自身が払いたくないことを理由に、彼女に全額払わせることはもっとしたくないことだった。



だから手を握り、手をつなぎ、そしてダッシュした。


全速力で、ダッシュした。

相手は地獄の門番だ。

喧嘩して勝てる相手ではない。

論理で勝負できる相手でもない。



であれば、


走るっ!

走るっ!!

全速力で!!!


ボルトよりも速く!!!

太陽よりも高く!!!!!

猛ダッシュする!!!!!!!!


新宿駅の改札にむかい!!!!!!!!!!!

財布と女性の右手を握りしめ!!!!!!!!!!!

鬼ダッシュする!!!!!!!!!!!!!!!!





結果的に、僕らは「食い逃げ」した。

結果的に、僕らは「無銭飲食」をした。

だからなんだというのだ。


これは「正義の無銭飲食」だ。




彼女はその後、電車に乗るまで

「ねぇ早川さ~ん!!やっぱり戻って誤って払おうよ~」

と半べそをかきながら訴えてきた。




お互い別々の電車に乗った後も

「早川さん、警察来ないかな?アタシ、監視カメラで撮られてないかな?」

と30件くらいLINEを送ってきた。




「大丈夫!おれに任せろ!」

「おれは、食い逃げの天才だ!」

「今日から食い逃げ名人と呼んでくれ。」

「食い逃げ王に、俺はなる!!」




「ん?今のなかなか名言じゃね?ww」

そんな独り言を声に出さずに囁きながら、僕はひたすら「おれは名人だ!」とLINEの返事を返していた。




どう考えたって僕のほうが正しい。

僕は今でもそう思っている。



彼女は正義感、倫理観で「払おうよ!」と訴えてきたわけじゃない。

ただ「ビビッてた」だけだ。




であれば、ビビッていない僕が正しい道へと誘導し、ビビってる彼女がビビッてない彼女に戻るまでひたすら冗談を連発する、それが「人の道」というものだ。



ボルトは、ジョイナーは、ベンジョンソンは、僕に教えてくれたんだ。

オマエも全速力で駆け抜けろ!!と。



アメリカの広大な大地で見たガチョウの群れは、僕に教えてくれたんだ。

ダサくてもいい、ごちゃごちゃ言ってないでオマエも早く天高く舞い上がれ!!と。




駆け抜けて、舞い上がり、

そして僕らは地獄への階段から無事地上世界へと帰還した。




駆け抜けて、舞い上がる。勇敢なる食い逃げ戦士。そう、それが僕だ。




「当たり前」には打ち勝たねばならない。


もっともらしい「当たり前」は、化けの皮をはがせばただの「脅し」と「詐欺」だったりする。

そんな「当たり前」に、ビビッてしょんべんちびって全財産お布施している場合ではない。



それでは何も変わらないんだ。

ビビってもいい。

しょんべんちびって洪水になってもいい。



走れ!

走るんだ!!


飛べ!!

天高く舞い上がるんだ!!!




常識に、当たり前に、もっともらしいことに、僕らは負けてはならない。

負け続ける限り、人生は変わらない。



常識の、当たり前の、もっともらしいことの、奴隷になって餌食になり、

騙されて、搾取される。




そんな人生こりごりだ。



違いますか?

わたしなんか間違ってること、言ってますか?




「え~!もちろんはいはい!!一杯だけでも結構ですよ~!ビール一杯400円!お安いですよ~」



入口のおっちゃんにそう宣言され、僕と彼女は、そこが地獄への入り口であることに気づきもせず、地獄への階段へと身を進めた。


地獄への階段を上り、地獄の門の中に一歩足を踏み入れる。

目の死んだ男たちと、目の死んだ女たち。

地獄の鬼だ。




なぜかみんな下を向いていて、目を合わせない。

なぜだかみんな「後ろめたさ」のオーラを発していて、生気が無い。




コイツらは、鬼ではない。

鬼の手下だ。



「あそこの席に行ってください。」




危険を察知したような、してないような、

「なんだコイツ、怪しそう・・・」

「なんだこの店、マズかったか・・・」

そう感じつつも、とりあえず席に着く。




目の死んだ女が、お手拭きも水も持たずにやってくる。


「うち、最低おひとり様2杯、おひとり様3品は注文していただくんで」



「へっ?いただくんで??ww」

「いただくんでって・・・なんだ?wwww」




僕は「やってもうた感」に打ちひしがれた。

僕ら二人は、鬼ヶ島に上陸していたのだ。



そこが鬼ヶ島だということも知らずに。




何も知らずにくぐりぬけた地獄の門は、鬼ヶ島へと僕らをいざなったのだ。



「うあ~、やってもうた・・・」

「しかも女の子連れて、、、おれアホだ・・・」

「おれバカだ・・・」

「おれ死ねっ!!」

「おれよっ!今すぐに死ねっ!!!」



そうは言っても始まらない。

なにせここは鬼ヶ島だ。

この世のものが住む場所ではない。




ひとしきり自分を自分で心の中でブッ飛ばした後、僕はすぐに逃亡を画策し始めた。


通路は一つ。

使えるのはあのエレベーターのみ。

レジの目の前だ。



鬼の子分たちは全員目が死んで下を向いている。

全員もぞもぞしゃべる。

店は暗い。



子分たちは、自分が悪いことをしていることをわかってる。

コイツら自体がワルなんじゃない。

コイツらは、あくまで手下だ。



たまたま面接に来た居酒屋がボッタクリ鬼ヶ島だったのだろう。

そしてもぞもぞしていて辞められないだけなんだろう。

でも、あんまり良くないことしているのは、自分が一番よくわかっているんだろう。





僕はあたりを見渡した。

どうやら鬼本人はいないようだ。

ならば、鬼の居ぬ間に、、、




「おねえさーん!」


僕は鬼の手下の目の死んだ女を呼ぶ。

女は、来ない。



「てめぇーこっち来いって言ってんだよこのクソアマぐわぁー!!!」

そう心の中では叫び、でも礼儀正しい僕は心の外では



「すみませーん!」

そう叫んだ。



手下が、こちらにやってきた。


「ねえおねえさんさぁ、ちょっと聞きたいんだけどい~い~?」

「なんですか?」


手下はやはり元気がない。

元気だせよっ!鬼だろっ!!

そう思いつつも、



「僕たち、別にお腹空いてないし、お酒も一杯でいいんだけど、やっぱダメなの?」


「はい。ダメです。」


サービス精神の欠片もない手下だ。

目だけでない。心も死んでしまったのか。



「じゃあわかった。じゃあお姉さんさぁ、一番安いのってどれ?」

「これとこれです。」




「じゃあわかった。その酒4杯と、その串6本。これでミニマムオッケーだよね?オッケー牧場だよね?それともオッケー墨汁?」

「はい。大丈夫です。」



てんめぇオヤジギャグに反応せんかいっ!反応をっ!!!

そう心の中で絶叫しつつ、


「じゃあそれでお願い!」



目の光と魂のともしびさえも消えかけたその女は、オーダーを出しにキッチンへと姿を消していった。




「今だっ!よしけいこちゃん!行きますか!」

「へっ???」



僕は右手に財布を握りしめ、左手にけいこちゃんの手を握りしめ、一応ちゃんとクツも履き、エレベーターに向かってダッシュした。


鬼の手下は他にもいる。

レジに一匹。

ホールに二匹。

キッチンへ消えた女が一匹。



エレベーターはやってこない。

ここは6階。

エレベーターは今1階。




冷や汗が垂れてくる。

鬼に見つかり、殺される。



鬼に捉えられ、ひとしきりシャブ漬けにされた後に歌舞伎町の片隅の雑居ビルの最上階にそびえ立つ鬼事務所の門番をやらされる。



俺はこのまま、鬼にとらえられ、そのはかなくも切ない人生に終止符を打つことになるのか。。

俺の人生、そんなもんだったのか。。。




冷や汗はどんどん吹き上がる。

華厳の滝か、あの晩のよしみちゃんの潮か。

そんなことはどうでもいい。




エレベーターは今3階。

いいぞ!早く上がれ!早く来い!

人よ、乗るな!!

人よ、エレベーターのボタンを押すな!!



は~るよこいっ♪

は~やくこいっ♪♪



歌っている場合ではない。



「あの~すいません。」


やばいっ、、レジの鬼に気づかれた。

ガーン!!!いっかんの終わりだ・・・

どうしよう!!どうしよどうしよ!!!




僕の冷や汗は、あの晩のよしみちゃんの潮よりもはるかに高く、はるかに激しく天井へ向けて吹き上がった。

レジの鬼、いや正しくは鬼の手下は言った。


「お帰りですか?」

うっひょーやべぇー!!!!

俺よ!!なんか考えろっ!!!今すぐなんか考えろ~!!!




「あ、あの~、そういえばその、あの~。。。平成って、なんで平成って、、言うんですかねぇ~」

「はっ?」

「その~、、あの~、、、えっとその~、、やはり平成とはひらたくて、成田山のようなその~、、」




チ~ン!



自分でも何を言ってるのかわからないことを言って必死でお茶を濁していると、天国へのエレベーターが到着したようだ。

僕は、けいこちゃんの腕を取り、思いっきり引っ張る。

エレベーターに飛び乗り、そして閉じるボタンを押して1階ボタンを押す。



「お代をはらっ」

鬼が言い切る前に救済のエレベーターの扉は閉じ、救いのエレベーターは1階に向かい落ちていった。


「天国とは、昇るものではなく落ちるものだったのですね。ということは~」



阿呆なことを言っているうちに、エレベーターは一階に到着する。

するや否や、僕は右手に財布を握りしめ、左手にけいこちゃんの右手を握りしめ、全速力でダッシュする。

ビルを飛び出し、一応念のため右を見て、左を見、そしてもう一回右を見て。


安全確認OK~!

指さし確認問題無し!


地元の駅のJRの車掌さんの真似をして動転した気を落ち着かせ、

そして新宿駅に向かって猛ダッシュ。




もう、僕らに朝は来ないかもしれないね、、

けいこちゃん、いままでお世話になりました、、、



阿呆な小言を言って気を紛らわせようとする。

けいこちゃんは、そんな小言を本気にして絶叫して泣き出す。


阿呆な小言を言いながら、僕たち「いいオトナ」二人は、無事無銭飲食をして無事新宿駅へと猛ダッシュして、無事新宿駅まで到達した。



正義は、貫かれた。

正義は、勝利した。


ツラくて長い、旅路だった。




当たり前に打ち勝ち、正義の食い逃げをしたあの日。

僕の中のなにかは、大きく変わり始めようとしていた。






月日が経ち、けいこちゃん。しばらくぶりにLINEを送ってくる。


「早川さーん。もうかってるー??」

「おう!なにどーしたのー?また食い逃げおごってほしいのー?」

「おごっておごってー!けいこ食い逃げおごられたーい!」



そんな阿呆な会話が出来るようになっていた。

けいこちゃんの中のなにかも、確かに大きく変わったのだ。


そう。僕たち二人は、「当たり前」に打ち勝ったのだ。




誰かに勝手に押し付けられた「当たり前」に打ち勝って、もうちょっと自由な発想で人生を楽しめるようになったのだ。


ビビったけど、しょんべん漏らしたけど、でもそれでよかったのだ。


いま僕は、そう強く実感している。




タイトルとURLをコピーしました